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弁護士と弁理士の違いとは?ダブルライセンスのメリットは?

目次
  • 弁護士と弁理士の違いとは?

  • 弁護士資格を持つことで弁理士登録もできる

  • 弁理士資格を持つ弁護士ができる業務

  • 弁護士が弁理士登録をするメリット

  • まとめ

  • 弁護士と弁理士の違いとは?

  • 弁護士も弁理士も、高度な試験に合格しなければ得ることができない国家資格です。それでは、弁護士と弁理士はどのような点が異なるのでしょうか?

    弁護士は、あらゆる法律問題を扱うことができる専門家です。訴訟代理人として裁判手続きを行ったり、示談交渉や契約書の作成などのあらゆる法律事務を代行することができます。

    これに対して、弁理士は「知的財産」という分野に特化した専門家です。弁理士法によると、「弁理士は、知的財産に関する専門家として、知的財産権の適正な保護及び利用の促進その他の知的財産に係る制度の適正な運用に寄与し、もって経済及び産業の発展に資することを使命とする」と定められています。

    知的財産とは、「人間の知的活動によって生み出されたアイデアや創作物などで、財産的な価値を持つもの」です。具体的には、特許権や著作権、実用新案権、意匠権や商標権などを指します。

  • 弁護士資格を持つことで弁理士登録もできる

  • 弁理士試験の難易度は年々上がっており、令和2年度の弁理士試験の合格率はわずか9.7%です。しかし、弁護士資格を持っている人は弁理士試験が免除されるため、弁理士試験を受ける必要がありません。つまり、弁護士資格を持っている人は、難しい試験を受けることなく、比較的容易に弁理士の登録をすることができます。

    弁理士試験は免除されますが、弁理士登録をするためには、日本弁理士会の「実務修習」を受ける必要があります(弁理士法7条)。実務修習といっても、司法試験合格後の司法修習のような実地研修ではありません。開講式やガイダンスはオンラインで行われ、研修についてはeラーニングシステムを選択することができます。このため、弁護士としての本業が多忙な人であっても、仕事の合間に事務所や会社で研修を進めることができます。実務修習の受講料は、11万8,000円です。eラーニングの講義は、ただ視聴するだけではなく、視聴後の確認問題に答える必要があり、一定数の正答率でなければ単位を取得することはできません。

    【日本弁理士会】実務修習について

    eラーニングで手軽に受講できるとはいえ、その内容は高度です。例えば、特許明細書の読み方や作成の仕方、意匠のハーグ出願の手続き、商標のマドプロ出願や類否判断など、知的財産に関する高度な内容が含まれています。法学部やロースクールで知的財産を選択した人であれば、比較的容易に理解することができますが、知的財産法の知識を全く持たない人にとっては、少々難易度が高いかもしれません。難易度が高いといっても、eラーニングは一時停止をしながら受講することができるので、ご自身のペースで受講を進めることができます。

    弁護士がダブルライセンスを持つことの意義については、下記の記事をご参考にしてください。
    弁護士のダブル(トリプル)ライセンスについて

  • 弁理士資格を持つ弁護士ができる業務

  • 弁護士と弁理士の業務は、どのような点が異なるのでしょうか?

    弁護士の業務は、弁護士法に定められています。弁護士法第3条によると、「弁護士は、当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱によって、訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件に関する行為その他一般の法律事務を行うことを職務とする」と書かれています。つまり、社会で生じるあらゆる法律トラブルについて、裁判や調停、示談交渉などの法的手段を用いて解決に導くことが、弁護士の業務です。

    一方で、弁理士の業務は、知的財産という分野に特化されています。つまり、弁理士とは、知的財産という分野に限った専門家であり、法律全般の専門家ではありません。知的財産という分野においては、弁護士よりも専門性が高く、スキルも高いと考えられるため、特許などの専門的な手続きにおいては弁護士よりも弁理士が活躍しています。

    ただし、弁理士は知的財産以外の法律業務を扱うことができないため、知的財産以外の案件について相談を受けた場合は、依頼を受けることができません。依頼そのものを断るか、知的財産に関わる分野に限って依頼を受けることになります。弁護士資格を持っている人は、相談内容が法律に関するものであれば、その問題が知的財産に関するかどうかを気にすることなく、幅広く請け負うことができます。

    つまり、弁護士と弁理士のダブルライセンスを持っていれば、弁理士として知的財産分野においての専門性の高さをアピールできると同時に、知的財産の分野に関わらず広範囲の法律業務を請け負うことができます。

  • 弁護士が弁理士登録をするメリット

  • 弁護士が弁理士登録をして活動をすると、どのようなメリットがあるのでしょうか?

  • ① 知的財産法に強い弁護士であるとアピールできる

  • 弁護士があらゆる法律業務を扱うことができるのに対して、弁理士の業務範囲は知的財産に限定されています。「弁護士の方が業務範囲が広いのだから、弁理士の資格は必要ないのではないか?」と思う方がいらっしゃるかもしれません。確かに、弁護士資格を持つ人にとっては、弁理士資格を取ったとしても業務の範囲は広がりません。

    それでは、なぜ弁護士と弁理士のダブルライセンスを取得する人がいるのでしょうか?

    弁理士は知的財産の案件しか取り扱わないため、知的財産のスペシャリストといえます。これに対して、弁護士はあらゆる法律業務を取り扱うため、知的財産に強いとは限りません。知的財産を扱う弁護士も一定数いますが、知的財産に詳しい弁護士の数は全体としては多くありません。このため、知的財産のトラブルを抱えている人は、「弁護士よりも弁理士に相談した方が良いだろう」と考えます。結果として、弁護士資格を持っているだけでは、知的財産の案件が集まりにくいということになります。

    弁護士と弁理士の双方の資格を持っておけば、知的財産に強い弁護士であるとアピールすることができます。クライアントからも、「知的財産のことを安心して相談できるうえに、いざとなったら訴訟対応もしてもらえる」と信頼してもらうことができます。

  • ② 知的財産権侵害訴訟において単独で代理人となることができる

  • 知的財産権侵害訴訟とは、知的財産権が侵害された場合に裁判を起こしたり、反対に、他社から知的財産権を侵害していると主張されて裁判を起こされることです。このような訴訟では、弁理士は、単独で代理人となることはできません。このため、弁護士に依頼して訴訟代理人を引き受けてもらい、弁理士は補佐人または共同代理人として手続きに関わります。弁護士資格を持っていれば、単独で訴訟代理人となることができるため、共同代理人を探す必要がありません。

  • ③ 転職に強くなる

  • 弁護士と弁理士のダブルライセンスを持っていると、転職で有利になることがあります。例えば、知的財産を業務の一部に扱う企業の法務部のポジションに応募する場合や、知的財産に力を入れている法律事務所に応募する場合は、弁理士の資格を持っていると評価が高くなります。もちろん、知的財産案件の契約書レビューや訴訟経験などの実務経験があるだけでも高く評価されますが、弁理士の資格を持っていると知的財産関連のスキルの高さをアピールしやすくなります。


    以上のように、弁護士と弁理士のダブルライセンスにはいくつかのメリットがあります。このような効果があることから、弁理士登録をしている弁護士は、全国に418人います。

    【日本弁護士会連合】弁護士の活動状況

    なお、上記の人数には弁理士登録後に弁護士資格を取得した人の数は含まれていないため、弁護士と弁理士のダブルライセンスを持つ人は、上記の人数よりも多いと考えられます。

  • まとめ

  • 今回は、弁護士と弁理士の違いについて説明し、ダブルライセンスのメリットについても紹介しました。弁護士と弁理士はどちらも法的な国家資格ですが、双方の資格を持つことで専門性が高まり、転職の場でも有利となります。

    ただし、弁護士が弁理士資格を取得するためには実務研修を受けなければいけませんので、一定のコストがかかります。ダブルライセンスについてお悩みの方は、今後の長期的なキャリアプランを検討したうえで、弁理士資格を取得するべきかを検討しましょう。キャリアプランについてお悩みの方は、いつでも転職エージェントにご相談ください。株式会社C&Rリーガル・エージェンシー社は、知的財産分野に強い法律事務所への転職や特許事務所への転職について多数の実績を有しております。ご自身の実務経験やスキルに応じて転職活動のアドバイスをさせていただきますので、お悩みの方はお気軽にご相談ください。

  • 記事提供ライター

  • 元弁護士 ライター
    東京大学卒業後、2009年に司法試験に合格。弁護士として知的財産業務、企業取引等のビジネス関連の業務を扱う。現在は海外に在住し、法律関連の執筆や講演を行う。

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