業界トピックス

勤務弁護士の雇用関係あれこれ

INDEX
  • 1.勤務弁護士は労働者か

  • 2.弁護士に残業代は出るのか

  • 3.弁護士は厚生年金に加入できるのか

  • 4.弁護士は解雇されやすい

  • 5.自分に合った働き方を雇用関係から考える

  • 1.勤務弁護士は労働者か

  • ある人が労働基準法における労働者に該当するかどうかは、業務委託契約や雇用契約といった契約類型にかかわらず、労働者としての実質を持つか否かによって判断されます。つまり、勤務弁護士が労働者か否かは、個別具体的に判断するしかありません。

    とはいえ、法律事務所勤務の場合には裁量が大きく自分のやり方で仕事ができることが多いので労働者にあたらない場合が多く、企業勤務の場合には上司の指揮命令に服することが多いので労働者にあたる場合が多いという傾向があります。これらの働き方を反映して、法律事務所勤務の場合には業務委託契約である場合が多く、企業勤務の場合には雇用契約である場合が多いので、結果として、原則通りに業務委託契約の場合には労働者ではない場合が多くなります。

    転職を考えている弁護士にとって、転職先における自分の人生をイメージするうえで、勤務先との雇用関係を整理してくことは有益と思われるので、ここでは、勤務弁護士の雇用関係について考えます。なお、ここでは、多くの勤務弁護士が該当する、特定の法律事務所と業務委託契約を締結して月額報酬を受け取っている状況も雇用関係に含めて考えることとします。

    ■関連コラム:「弁護士のリアルな働き方」

  • 2.弁護士に残業代は出るのか

  • 弁護士は激務となる場合が多いのですが、激務となると、それに相応しい対価が欲しくなります。具体的には、残業代は出るのかが気になるのが人情です。

    まず、勤務先と業務委託契約を締結している場合、原則、残業代は出ません。一見酷いことのように思えますが、業務委託契約であれば、今日はやることがないから出勤しない、土・日・月の三連休に火曜を加えて四連休としたいので、その火曜は徹底して差し支える(仕事の予定を入れない)という自由があります。自由と引き換えに激務のリスクを背負うというのが法の建前です。もっとも、自由がなく労働者性が認められる場合には、業務委託契約の場合でも、残業代を請求できる可能性があります。

    勤務先と雇用契約を締結している場合には、原則として残業代が出ます。もっとも、弁護士の業務は専門性が高いので、裁量労働制が適用されている場合もあり、その場合には残業代は出ません。また、残業代が出ている場合でも、労働基準法における管理監督者に出世すれば、残業代は出なくなります。

    弁護士にとって、残業代は、企業に裁量労働制ではなく勤務しており、出世するまでの間だけ受け取れる限られたものだと言えるでしょう。

    ■関連コラム:「弁護士のボーナス・賞与事情について」

  • 3.弁護士は厚生年金に加入できるのか

  • 勤務先と業務委託契約を締結している場合、厚生年金(ここでは、同時に加入することになる厚生年金保険と健康保険を総称して厚生年金といいます。)に加入することはできません。

    企業勤務で雇用契約を締結している場合、厚生年金に強制加入となります。弁護士法人勤務の場合も同様です。

    弁護士法人以外の法律事務所勤務と雇用契約を締結している場合、厚生年金に加入できるかどうかは場合によりけりです。2022年10月から、弁護士法人以外の法律事務所であっても、常時5人以上の労働者がいる場合には、厚生年金に加入しなければならなくなりました。とはいえ、この常時5人という条件をクリアしている法律事務所は少数派です。弁護士30人の法律事務所でも、10人のパートナー弁護士が、それぞれ2人のアソシエイト弁護士と2人の事務職員、合計4人の労働者を雇用しているような場合があるからです。逆に、経営者弁護士1人、事務職員2人という法律事務所に雇用されることになった場合でも、当該法律事務所が、事務職員のために厚生年金の任意適用事業所となっていれば、厚生年金に加入できます。なお、この場合、経営者弁護士だけは厚生年金に加入できません。

    とはいえ、勤務弁護士にとって、厚生年金に加入することはデメリットでもあります。弁護士の社会保険については「小話 ~弁護士の社会保険~」で触れましたが、特に東京近郊の弁護士は、国民年金と弁護士国保をベースにして厚生年金よりも有利な保険内容を実現可能です。そのため、多くの弁護士が、公職についたりインハウスに転身したりすることで、厚生年金に加入することを嫌います。年金制度は加入期間が長ければ長いほど有利になるので、これまでの加入制度を途中脱退し、厚生年金に途中加入しても、良いことなど一つもないからです。

  • 4.弁護士は解雇されやすい

  • 勤務先と業務委託契約を締結している場合、解雇という概念はなく、契約内容次第では即時の契約終了もあり得ます。とはいえ、労働者性が認められる場合には保護される場合もあります。

    勤務先と雇用契約を締結している場合でも、弁護士は、他の職業と比較すると解雇されやすい立場にあると言えます。通常、弁護士は、弁護士としての能力を期待されて、その能力が必要不可欠な職務に従事するために雇用されます。もしその能力に欠けていた場合には、他の職務での代替勤務を検討されることなく、解雇される可能性があります。

    弁護士である以上、相応の能力を期待され、それは企業に雇用される場合であっても変わらないので、どのような環境であっても、自己研鑽を欠けば職を失う可能性があります。

  • 5.自分に合った働き方を雇用関係から考える

  • 自由な働き方を求めるならば、勤務先とは業務委託契約を締結するべきでしょう。法律事務所勤務との業務委託契約であれば、かなり自由な働き方ができます。旅先から裁判期日にオンライン出頭することも可能な時代となりました。企業勤務の場合であっても、在宅の業務委託で、都度示される納期までに契約書の添削などを行えばよいという働き方もあります。この場合も、旅先にノートPCを持っていき、そこで仕事をすることが可能です。

    安定した働き方を求めるならば、勤務先と雇用契約を締結するべきです。企業勤務であれば、決まった時間に出勤して決まった時間に退勤するという働き方を実現しやすいでしょう。法律事務所でも、決まった時間に出勤して起案をし、期日があれば裁判所に出頭し、決まった時間に退勤するという働き方ができるようになってきました。一所懸命に雇用契約を継続し、厚生年金に長期間加入し続ければ、自然と老後への備えになります。

    自分が求める職場をイメージする際には、取扱分野だけでなく、働き方を考えることも重要で、その際には勤務先との雇用関係が重要になります。C&Rリーガル・エージェンシー社は、どこで働くか、だけでなく、どのように働くか、についても理想を実現できるようサポートしていますので、就職/転職をお考えの際には、お気軽にお問い合わせください。

  • 記事提供ライター

  • 弁護士
    大学院で経営学を専攻した後、法科大学院を経て司法試験合格。勤務弁護士、国会議員秘書、インハウスを経て、現在は東京都内で独立開業。一般民事、刑事、労働から知財、M&Aまで幅広い事件の取り扱い経験がある。弁護士会の多重会務者でもある。

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