業界トピックス

弁護士の執筆活動~弁護士が本を書く方法

INDEX
  • 1.弁護士は本を書きたがる

  • 2.想定する読者は弁護士

  • 3.出版スケジュール

  • 4.どうすれば本を書けるのか

  • 5.書くことがあることが重要

  • 記事提供ライター

  • サイト運営会社:株式会社C&Rリーガル・エージェンシー社

  • 1.弁護士は本を書きたがる

  • 弁護士にとって、本を書くことは伝統的な自己ブランディング手段です。本の読者が依頼をしてくることも想定されますし、事務所のWEBサイトのプロフィール欄に著作が並んでいれば、それを見たお客様に優秀な弁護士だと思っていただけるでしょう。そのため、かつての筆者を含む若い弁護士は、本を書くことに興味津々です。ここでは、講演などでプロフィールの作成を依頼される度に異なった著作を紹介している筆者が、どうやって本を書いているのかを紹介します。

  • 2.想定する読者は弁護士

  • 弁護士が書く本の多くは、読者として弁護士を想定していますが、その理由は3つあります。

    1つ目の理由は、難しい本を書きたい、ということです。筆者はかつて学者の卵だったのですが、ある学者は、他の学者が一般の方に向けて執筆した本を通俗本だと言い放ち、他の学者に評価される書籍を執筆してこそ一流だと話していました。他の学者も、一般向けの本を執筆しながら、誰かが学問を世に広めなければいけないからね、と自分に言い聞かせていました。弁護士にも学者と似たところがあり、自分はその書籍のテーマについては自信があって本を書くのだから、自信に相応しい、他の弁護士を感心させる高度な内容を詰め込みたいという欲求があります。

    2つ目は、箔が付く、ということです。内容が充実している、他の弁護士にとっても参考になる書籍を執筆できれば、他の弁護士の先を行っていることを証明できます。もっとも、広く集客したい、一般社会における知名度を高めたい、という目的であれば、一般の方向けの本を執筆すべきでしょう。

    最後の理由は、売りやすい、という出版社側の事情です。一般向け書籍は、市場こそ広いものの、伸るか反るかの世界で、売れるか売れないかは内容とは無関係です。一般向け書籍は販売価格を低く設定する必要があり、頁数が限られます。文字を大きく絵を多用して読みやすくする必要もあります。難しい内容はご法度です。様々な制限がある中で、差別化要素は、キャッチーなタイトル、手に取りたくなるデザイン、メディア露出、口コミの演出、などの広告手段となります。単価が低い上に広告にお金もかかるのですから、よほど爆発的なヒットとならない限り、出版社には利益が出ません。一方の弁護士向け書籍には、内容で勝負できる上に単価も高いという、売上予測の立てやすさがあります。市場はさほど広くないものの、1冊3,000円以上の本を躊躇なく購入するのは弁護士だけだと出版社の方に言われました。

  • 3.出版スケジュール

  • 弁護士向けの書籍を売るには、弁護士が集まる場所で売ることが一番です。弁護士が最も集まるのは毎年2月初旬におこなわれる弁護士会の選挙日です。選挙日には、霞ヶ関の弁護士会館に、出版社の新刊ブースが設けられます。書いた本を新刊ブースに並べることをゴールに、出版スケジュールは逆算されます。

    弁護士による共同著作の場合、書籍の出版は、次の手順でおこなわれます。編集担当(弁護士側の中心人物、複数の場合も多い)と出版社内の担当者とで企画打ち合わせ、企画書を作成して出版社内の企画会議を通す、編集担当が執筆要領とサンプル原稿を作成、執筆参加者の募集、執筆開始、原稿提出・編集担当による校閲・出版社による校正(完成するまで繰り返し)。

    印刷を考えると、1月初頭には原稿を完成させる必要があります。校閲・校正を3回ずつおこない、それぞれに1か月かかると見た場合、前年11月末には第三稿入稿、前年10月末には第二稿入稿、前年9月末には初稿入稿、執筆と編集担当による初回校閲に2か月かかるとして前年8月には執筆開始、前年7月前半にはサンプル原稿完成となっていくので、遅くとも前年6月中には企画書が通っている必要があります。これはかなりギリギリのスケジュールです。

    弁護士は怠け者が多いので、筆者の経験上、ギリギリのスケジュールでなければ出版にこぎつけられません。選挙に間に合わないから出版予定を1年先送りにした瞬間に関係者全員の気が緩み、1年後には、何の進捗もないばかりか、新たに発生する法改正や最新裁判例の反映作業で状況が悪化してしまい、いつしか出版の話自体が立ち消えとなります。そうなると、企画書を通してくれた出版社にも、スケジュールを守って執筆してくれた執筆参加者にも失礼です。だから筆者は、例年、ギリギリのスケジュールで戦っています。

  • 4.どうすれば本を書けるのか

  • 本を書くきっかけは様々です。筆者の場合、弁護士の勉強会に参加していたら、そのまとめ役の先輩が、付き合いのある出版社と勉強会の成果を書籍化する話をつけてきてくれて、編集担当として徴兵されたことが初体験でした。そのうちに、出版社から何かネタはないかとせっつかれて何かネタを絞りだしたり、逆に、こんなネタがあると出版社に連絡したりするようになりました。

    勤務先の法律事務所や、弁護士会の委員会、有志の勉強会などで、出版の話が持ち上がったら率先して手を挙げるというのが、本を書けるようになる近道です。そのような機会を活かして地道に汗を流していけば、出版社と直接のつながりができて、カジュアルに企画を持ち込めるようになります。弁護士の中には、面識のない出版社にアポを取って、いきなり企画を持ち込む方もいるようです。この場合のメリットは、団体名義や共同著作からのスタートではなく、いきなり単著で出版ができるということでしょう。

  • 5.書くことがあることが重要

  • 最後になりますが、本を書くときに一番重要なことは、自らが、書籍として出版するに相応しい知見を有していること、です。

    筆者は、若手弁護士が本を書きたがっていることを知っているので、できるだけ多くの若手に著作を持つ機会を与えようと、メーリングリストなどで広く執筆者を募ってしまいます。そのため、これまで数十人という若手弁護士が書いた原稿を校閲してきましたが、原稿には、弁護士としての実力がわかりやすく顕れます。

    日々の仕事を丁寧におこない、工夫を欠かさず、失敗または失敗しかかった経験を蓄積していけば、書くべきことはいくらでもあります。そんな若手が書いた原稿は、筆者も校閲していて勉強になると感じるほどです。

    しかし、雑な仕事をしているだろう若手は、どこかの学者が書いた教科書や判例評釈のコピペを継ぎ接ぎしたキメラ原稿を提出してきます。とてもそのままでは世に出せないので、筆者は校閲という名の書き直しを強いられることとなります。初めから筆者が原稿を書いた方が楽に良いものができるのですが、若手に著作を持たせることが目的なので頑張っています。

    最近は、筆者も、実力のない若手に信用されるきっかけを与えてしまうとお客様を騙すことになってしまわないかという思いが強くなり、また、書き直しの時間的余裕がなくなってきたことから、執筆者を一本釣りで集めるようになってきました。委員会での発言内容や、飲み会での相談内容・回答内容からも、弁護士としての仕事ぶりはわかります。本を書きたいならば、弁護士としての実力を身につけていけば、自然と機会が巡ってくるのではないかと、筆者は考えています。

  • 記事提供ライター

  • 弁護士
    大学院で経営学を専攻した後、法科大学院を経て司法試験合格。勤務弁護士、国会議員秘書、インハウスを経て、現在は東京都内で独立開業。一般民事、刑事、労働から知財、M&Aまで幅広い事件の取り扱い経験がある。弁護士会の多重会務者でもある。

  • サイト運営会社:株式会社C&Rリーガル・エージェンシー社

  • 弁護⼠、法務・知財領域に精通したプロフェッショナルエージェンシーです。長きに渡り蓄積した弁護士・法律事務所・企業の法務部門に関する情報や転職のノウハウを提供し、「弁護士や法務専門職を支える一生涯のパートナー」として共に歩んでまいります。
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