業界トピックス

小話 ~多重会務者になろう~

INDEX
  • 1.多重会務者とは何者なのか

  • 2.そもそも会務とは何か

  • 3.東京の会務への無関心

  • 4.多重会務者のメリット

  • 5.戦略的多重会務者のススメ

  • 記事提供ライター

  • サイト運営会社:株式会社C&Rリーガル・エージェンシー社

  • 1.多重会務者とは何者なのか

  • 弁護士の中には多重会務者と呼ばれる人種が存在しています。言葉の通り、多重の会務に苦しむ哀れな存在です。小規模弁護士会では弁護士のほぼ全員が多重会務者に該当します。東京での割合は低いのですが、弁護士の数が多いので珍しい存在ではありません。東京三会には20,000人以上の弁護士がいるので、この5%が該当すると仮定しても、東京だけでも1,000人以上の多重会務者が日々意に反する苦役に服しています。今回は、弁護士の中でも知らない人が多い多重会務者の実態を紹介し、戦略的に多重会務者になることの素晴らしさを提唱します。

  • 2.そもそも会務とは何か

  • 残念ながらあまり知られていないのですが、弁護士会は色々な活動をしている忙しい組織です。筆者が関わっているのは、大学での出張講義、書籍・ウェブサイト掲載記事の企画・執筆・編集・広報、法律研修の企画・運営・広報、法律相談会の企画・運営・相談員・広報、他士業団体・業界団体・自治体への営業周り、日弁連からの意見照会への回答書案作成、弁護士会規則改正の審議、弁護士会の入退会審査などです。教育と営業と内部統制に偏っていますが、他の弁護士は、国選刑事弁護、子ども・高齢者・外国人の権利擁護などの、おそらく世間が抱いているイメージ通りの活動も行っています。弁護士会の活動内容は幅広過ぎて、筆者には把握しきれていないというのが正直なところです。弁護士は、これら弁護士会の活動に参加する義務を負っており、この義務のことを会務と呼びます。

    ところで、ほとんどの弁護士は、たまに委員会に出席するだけで会務を果たしたつもりになっています。そして、委員会など議論を行うだけで何の役にも立っていないと主張します。しかし、委員会は、活動方針の決定や、必要な決議を行うための場に過ぎません。筆者は、複数の委員会で、司会や趣旨説明のために毎回出席を強いられていますが、それ以上に委員会に上程する議案の準備に時間を取られています。無給なのに毎月数十時間が奪われており、いつ仕事をしているのか、自分でも不思議です。

  • 3.東京の会務への無関心

  • 筆者は関西の地方都市で弁護士になりました。規模が小さい弁護士会では、新人の全員が先輩に顔を覚えられてしまいます。新人時代の筆者も、筆者の顔を覚えた先輩方から、若いうちは勉強だ、わかっているよね(押忍以外の返事をしたらしばくよ)、という、およそ基本的人権の擁護者に相応しくない脅迫的言辞によって自由意志を制圧され、押忍の返事とともに複数の委員会に所属して複数の法律相談名簿や当番弁護士名簿に登録しました。おそらく、小規模弁護士会に所属する弁護士の多くは先輩弁護士によって多重会務に沈められています。

    東京に移った筆者は会務への温度差に驚きました。委員会に出席すると、多重会務者オーラを発している同類が、どなたか会務をお手伝いしていただける方はいらっしゃいませんか、とおそるおそる声がけし、皆が聞かない振りをしているのです。先輩方も、新人の顔を把握していないので、わかっているよね、と圧力をかけることができない様子です。結局いつも、ご協力いただける方はメールをください、と言って委員会は終わります。

    東京に来たばかりの筆者は、多重会務はもうこりごり、けれど他人に負担を押し付けることは心苦しい、だから会務の総量を頭数で割った量をやや上回るだけ会務をしようと考えていました。東京は弁護士が多いので、皆でシェアすれば大した負担にはならないはずです。そこで、ある軽作業のボランティア募集にメールで参加の意思表示をしました。シャイな筆者は委員会では手を挙げられませんでしたが、同類は他にもたくさんいると思っていました。

    いませんでした。
    筆者は頼まれると断れない奴認定されてしまい、またも多重会務者へと転落しました。しかも、いつの間にか筆者の会務負担は地方都市時代よりも増えてしまいました。東京はおっかねえところです。

  • 4.多重会務者のメリット

  • 多重会務者になることは悪いことばかりではありません。講演や書籍執筆の機会に恵まれますし、それっぽい肩書がつくこともあります。言わぬが花の時代に育った筆者にはなかなか真似できませんが、会務を通じてウェブサイトのプロフィール欄を充実させている弁護士は沢山います。

    弁護士の知り合いが増えることも多重会務者のメリットです。一緒に会務を行えば、顔と名前が一致するだけでなく、事務処理能力やひととなりもおおよそ把握できます。ある先輩が、弁護士の最大の顧客は同業者だと話していましたが、会務を通じて、多くの弁護士から、この弁護士にならば安心して顧客を紹介できると思ってもらえれば、売上に結びつきます。もちろん、仕事に悩んだ際の相談相手が増えることもメリットです。同じ相談をするにも、そのための場をセッティングする心理的なハードルは高いですが、会務の後の懇親会でならば、軽い気持ちで質問できます。弁護士が懇親会を好むのは、持ち込まれた質問に関する議論を通じて、スキルアップが果たせるからでもあります。

    会務の一番の問題は、適度な負担にとどめることが難しいことです。無給だからと手を抜くことは許されません。弁護士会の名前で下手を打ってしまえば、業界全体の信用が害されるからです。そのため、重要な会務は、能力人格共に信用できる弁護士にしか任せられません。

    しかし、この問題はチャンスにも結び付きます。筆者ら泥沼の先住民の多くは、およそ積極性を持ち合わせていないので、元気よく泥沼に飛び込み委員会で率先して手を挙げて一定の能力を示せば、弁護士会の肩書も人脈も簡単に手に入ります。筆者ら泥沼の先住民としても、新たな身投げがあれば負担が分散するので、どうぞどうぞの精神でお迎えします。キャリア形成に資する上に人助けができるだなんて、もはや多重会務者にならない理由がありません。

  • 5.戦略的多重会務者のススメ

  • これからの弁護士には攻めの営業が求められると言われて久しいですが、単に自分はどの分野が得意ですと自称するだけではお客様には全く響きません。誰にでも同じことができるからです。しかし、弁護士会の活動を通じて、講演や書籍執筆を行ったり、同業者から評価されて役職についたり、政府や地方自治体の会議体に推薦されて参加したりすれば、自分が客観的に評価されていることを示せます。会務負担を営業コストと割り切って戦略的に多重会務者になることは攻めの営業そのものです。戦略的多重会務者という言葉は流行るような気がしています。流行ってください。会務はやる気に燃えている人が担うべきです。やる気のない筆者は降りかかる火の粉に燃やされているだけなので、担い手として相応しくないのです。

  • 記事提供ライター

  • 弁護士
    大学院で経営学を専攻した後、法科大学院を経て司法試験合格。勤務弁護士、国会議員秘書、インハウスを経て、現在は東京都内で独立開業。一般民事、刑事、労働から知財、M&Aまで幅広い事件の取り扱い経験がある。弁護士会の多重会務者でもある。

  • サイト運営会社:株式会社C&Rリーガル・エージェンシー社

  • 弁護⼠、法務・知財領域に精通したプロフェッショナルエージェンシーです。長きに渡り蓄積した弁護士・法律事務所・企業の法務部門に関する情報や転職のノウハウを提供し、「弁護士や法務専門職を支える一生涯のパートナー」として共に歩んでまいります。
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