業界トピックス

【人事・採用担当者向け】企業法務部の仕事とは?主な仕事内容と必要な人材の見極め

INDEX
  • 企業法務部とは?人事担当者が知っておきたい基礎知識

  • 法務部の主な4つの仕事とは

  • 法務人材に求められるスキル・経験

  • 法務人材の採用で注意すべきポイント

  • 法務人材の採用は専門エージェントの活用がおすすめ

  • 「法務部って実際に何をする部署なの?」
    法務部門の新設や人材採用を検討するなかで、こうした疑問を持たれる人事・採用担当者の方は少なくありません。法務部は、企業の信頼や安全を守る「縁の下の力持ち」ともいえる重要なポジションです。

    この記事では、法務部の仕事内容をわかりやすく4つに分類してご紹介したうえで、外部の弁護士との役割分担や、採用時に見るべきスキル・経験のポイントも解説します。

    「法務部って本当に必要?」
    「どんな人を採用すればよいの?」
    こんなお悩みをお持ちの方は、ぜひ参考にしてみてください。

  • 企業法務部とは?人事担当者が知っておきたい基礎知識

  • 法務部は、企業における「法律の相談役」かつ「リスクの監視塔」です。

  • ■そもそも法務部は何をする部署?

  • 法務部の主な仕事は、会社の取引や活動が法律に違反していないかを確認し、トラブルを未然に防ぐことです。取引先との契約書の確認や、株主総会の運営サポート、知的財産の管理、コンプライアンスの推進など、企業の成長と安定を支える役割を担います。

    また、法務部は「攻め」の役割も持っています。たとえば、新規事業を始める際、法的なリスクを事前に洗い出したり、他社の法的トラブルを分析して自社に活かしたりと、ビジネスの舵取りにも関与します。

  • ■弁護士とどう違う?社内法務の役割

  • 弁護士は基本的に外部の専門家で、訴訟や法律相談の代理、裁判手続きなどを行います。社内法務は、社内の一員として、日常的な契約チェックや社内向けの法的アドバイス、社内規定の整備などを行います。

    つまり、社内法務は「日常業務に密着した法律対応」を行い、弁護士は「専門的かつ外部的な法律対応」を担うと考えると分かりやすいでしょう。両者は連携して動くことも多く、法務部が一次対応を行い、必要に応じて弁護士に引き継ぐ流れが一般的です。

  • 法務部の主な4つの仕事とは

  • 法務部の業務は、「契約法務」「商事法務」「臨床法務」「予防法務」の4つに大別できます。

  • ■契約法務|契約書の作成・チェックなど

  • 契約法務は、取引先との契約書をチェックしたり、内容を修正・作成したりする仕事です。たとえば、納品時期、支払条件、秘密保持、損害賠償の範囲など、細かい条文の中にリスクが潜んでいることもあります。

    法務部はこれらを丁寧に確認し、社内の各部署や経営陣とも連携して、契約書を仕上げていきます。交渉の戦略を練るためのアドバイスや、契約書のテンプレート作成も契約法務の一環です。

  • ■商事法務|株主総会や登記など会社運営に関わる業務

  • 商事法務では、会社法に基づく手続きを行います。たとえば、株主総会や取締役会の議事録作成、会社の登記変更手続き、株式発行の事務などが含まれます。

    また、コンプライアンス委員会や社内規程の整備など、ガバナンス(企業統治)に関する対応もこの分野に含まれます。法令順守だけでなく、「会社として社会的に正しい運営ができているか」を見極める役割です。

  • ■臨床法務|トラブル発生時の対応・交渉

  • トラブルが発生した際、まず社内で状況を把握し、関係者と連携しながら早期解決を図るのが臨床法務です。クレーム対応、支払い遅延、契約違反など、初期対応が迅速かつ適切であるかが、後のトラブル拡大を防ぐ鍵になります。

    ここでは顧問弁護士と協力して、適切な落としどころを探ったり、必要に応じて社内報告・役員判断を仰いだりすることもあります。交渉力とバランス感覚が求められる仕事です。

  • ■予防法務|問題を未然に防ぐリスク管理の視点

  • 予防法務では、将来起こり得るリスクを予測し、事前に手を打つことが求められます。具体的には、社内研修やeラーニングの企画、社内規程の整備、法令対応チェックリストの作成などが挙げられます。

    また、新規事業立ち上げ時に法律調査を行ったり、法改正に対応するための体制整備を主導したりと、法務の「企画力」も問われる分野です。

    法務部と外部弁護士は、企業の法的リスクに対応する両輪です。それぞれの得意分野を理解し、適切に役割を分けることが重要です。

  • ■法務部員が行う業務とは

  • 法務部は、企業の一員として日常的な業務に密接に関わる部署です。現場の動きや社内事情に精通しているため、スピード感と実行力をもって法務対応ができるのが特徴です。

    具体的には、次のような業務を担当します。

    ・契約書の作成・チェック(定型・準定型契約)

    ・法律相談への一次対応(社内からの質問、トラブル相談など)

    ・社内規程や社内ガイドラインの整備

    ・法改正情報の収集・周知

    ・コンプライアンス研修や内部通報制度の整備

    ・各部署からの照会に対する法的助言

    ・顧問弁護士への相談前の論点整理や資料準備

    このように法務部員は、社内外の多様な法律問題に対応する、いわば企業の「法の専門窓口」ともいえる存在です。企業活動を安全に、スムーズに進めるために、欠かせない役割を担っています。

  • ■弁護士に任せるべき業務とは

  • 一方で、法務部だけでは対応が難しい場面もあります。法的なリスクが高度であったり、対外的な交渉や紛争が関係する場合には、弁護士の専門的な知見が必要になります。

    たとえば、以下のような業務は、外部弁護士に依頼すべき領域です。

    ・取引先や顧客との法的トラブル対応(警告・交渉・訴訟など)

    ・株主総会運営に関する法的チェック

    ・労働紛争(労基署対応、未払い残業代請求、解雇トラブルなど)

    ・新規事業における業法対応の精査(薬機法、建設業法、金融商品取引法など)

    ・海外取引やクロスボーダー契約の確認

    ・税務、知財、独占禁止法など専門性の高い領域の対応

    ・社内調査(不正調査、第三者委員会対応など)

    また、取引先との関係上、中立性や対外的な説得力が求められる場面では、弁護士による正式な意見書や代理交渉が有効です。

    法務部が社内の事情を把握して初期対応や課題の抽出を行い、リスクの高い案件については弁護士にバトンタッチする。この役割分担によって、企業は効率的に、かつ適切に法的リスクへ対応できます。

  • 法務人材に求められるスキル・経験

  • 単に法律を知っているだけでは、企業の法務部にふさわしい人材とは言えません。社内外と連携しながら、リスクを防ぎ、ビジネスを前に進める力が求められます。

  • ■契約書作成やチェックのスキル

  • 企業法務で最もよくある仕事のひとつが契約書の確認です。ビジネスの現場では、売買、業務委託、秘密保持など、さまざまな契約書が飛び交っています。
    その内容を正確に読み、リスクがある条文を見つけたり、会社に不利な内容を修正したりする力が必要です。

    また、ひな形をベースにしながらも、案件ごとの事情に合わせてカスタマイズできるスキルも重要です。言い回しの選び方や法的な解釈の違いが、将来的なトラブルに大きく影響することもあるため、丁寧かつ慎重な対応が求められます。

  • ■業界知識や関連法令への理解

  • 法務人材を採用する際は、法律の知識や契約スキルだけでなく、「業界の理解があるかどうか」も重視すべきポイントです。

    たとえば、製造業では下請法や製品の品質保証、不動産業であれば物件管理の実務や取引慣行、IT業界ではシステム開発やSaaS契約の特徴など、業界ごとに求められる法務の役割や視点は大きく異なります。こうした知識があれば、法務としての助言も現場に即したものになり、社内での信頼も得やすくなります。

    また、各業界には必ずといってよいほど、関係する業法(宅建業法、薬機法、金商法など)があります。こうした法律への理解がある人材であれば、法務部配属後すぐに実務に対応できるため、教育コストを抑えつつ即戦力として活躍してもらいやすくなります。

    業界知識を備えた法務人材は、社内の実務と法務の橋渡し役として機能します。「使える契約書」をつくれる、リスクの目利きができる、社内の温度感に合った提案ができるなどといった人材は、ビジネスのスピード感に対応できる法務部づくりに欠かせません。

  • ■コミュニケーション能力

  • 法務部員に求められる資質として欠かせないのが、「社内外との円滑なコミュニケーション力」です。

    法務は、契約や法令だけを扱う職種と思われがちですが、実際には営業・企画・人事・開発など、あらゆる部署と関わります。法的なアドバイスを的確に伝える力はもちろんのこと、相手の立場や業務背景をくみ取りながら調整できるバランス感覚も重要です。

    「正しいことを言うだけでは、社内に受け入れられない。」これは、多くの現場で見られるリアルな課題です。ですから、採用にあたっては、法的知識だけでなく、わかりやすく説明する力、柔軟に対応する姿勢、他部門と信頼関係を築ける資質があるかをしっかり見極める必要があります。

    また、顧問弁護士や行政対応を担う場面もあるため、対外的な調整や文書作成の丁寧さも評価ポイントとなります。

  • ■立ち上げ期なら組織マネジメント経験も重要

  • これから法務部門を立ち上げる企業や、専任の法務担当を初めて採用するという企業では、実務スキルに加えて「仕組みを作る力」や「マネジメント経験」も重視すべきポイントです。

    契約審査や法律相談に対応するだけでなく、業務フローの整備、相談ルールの明文化、顧問弁護士との役割分担の明確化など、業務基盤づくりが求められるためです。

    また、将来的に法務チームを拡大する構想がある場合は、人材育成や業務の可視化・分担といったマネジメントの経験が活きてきます。

    中途採用であれば、過去に法務部門を立ち上げた経験、または数名規模のチームをマネジメントしていた経験がある人材は非常に心強い存在です。

    「法務のプロ」であると同時に、「組織づくりのプロ」としての視点を持った人材かどうかを、採用面接の段階で見極めておくとよいでしょう。

  • 法務人材の採用で注意すべきポイント

  • 法務人材を採用・外注する際には、「どこまで社内で対応できるのか」「弁護士でなければならない業務は何か」といった線引きが重要です。人事担当者として適切な判断を行うための基礎知識を整理しましょう。

  • ■非弁提携にならない採用・外注の考え方

  • 弁護士資格を持たない社員に法務業務を任せる際、最も注意が必要なのが「非弁行為(ひべんこうい)」と呼ばれる行為です。

    非弁行為とは、報酬を得る目的で他人の法律事件を処理したり仲介したりする、弁護士でなければできない業務を無資格で行うことを言います(弁護士法72条)。

    ただし、企業の法務部が自社の法律問題を取り扱う場合、それは「他人の法律事件」には該当しないとされ、非弁行為にはあたりません。たとえば、契約書のチェックや、債権回収に関する社内対応、訴訟方針の検討などは、法務部内で実施して問題ありません。

    注意が必要なのは、グループ会社や他社の業務に踏み込むケースです。たとえ資本関係があっても、法人格が異なれば「他人」とみなされる可能性があります。

    採用・委託にあたっては、「対応範囲が自社内に限られているか」「その業務に弁護士資格が必要か」を事前に明確にし、適切な体制を構築することが不可欠です。

  • 法務人材の採用は専門エージェントの活用がおすすめ

  • 法務人材の採用は、一般職とは異なり「専門性の見極め」が非常に重要です。たとえば、契約法務・商事法務・M&A対応・知財・コンプライアンスなど、求められる実務経験は企業ごとに異なります。さらに、非弁行為に該当しない業務範囲の把握や、法務部門の立ち上げ・強化に向けた組織設計まで、人事ご担当者だけで対応するにはハードルの高い領域です。

    こうした課題に対し、C&Rリーガル・エージェンシー社では法務分野に精通したエージェントが、ポジションごとの要件整理から候補者のご紹介、採用後の定着まで丁寧にサポートします。紹介可能な人材は、企業法務経験者・インハウスロイヤー・司法修習修了者・法律事務職員まで幅広く、正社員採用に加えて業務委託や派遣といった柔軟な働き方のご提案も可能です。

    法務人材の採用でお困りの際は、ぜひC&Rリーガル・エージェンシー社にご相談ください。企業法務を知り尽くしたエージェントが、最適な人材と出会うためのお手伝いをいたします。

記事提供ライター 中澤 泉(弁護士)

弁護士事務所にて債務整理、交通事故、離婚、相続といった幅広い分野の案件を担当した後、メーカーの法務部で企業法務の経験を積んでまいりました。
事務所勤務時にはウェブサイトの立ち上げにも従事し、現在は法律分野を中心にフリーランスのライター・編集者として活動しています。